東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2039号・昭31年(ネ)504号・昭31年(ネ)501号 判決
よつて進んで、控訴人らの損害賠償の責任及びその金額について考える。
まず使用者たる被控訴人の監督に関する過失の有無を検討するに、(中略)前野一郎の横領額は月別に計算して次のように認められる。
昭和二十七年六月 一二、〇〇〇円 昭和二十七年十一月 五四、五〇〇円
〃 七月 一三、〇〇〇円 〃 十二月 八九、〇〇〇円
〃 八月 一二、〇〇〇円 昭和二十八年 一月 二一八、四〇〇円
〃 九月 一七、〇〇〇円 〃 二月 二九四、四九〇円
〃 十月 一七、〇〇〇円 〃 三月 二三二、七〇〇円
しかして成立に争のない甲第十号証(酒巻四郎供述調書)には、「私の会社(被控訴人)ではお客に照会書を出して掛金が確実に会社に入金しているかどうか照会をやることになつていましたが、約半年程はこれが行われていなかつたようですが、本年(昭和二十八年)二月頃再びやり始めたのでした。するとこれが始つてから前野はしばらく会社を休むようになりました。そうしているうち三月の月末頃になつて前野は会社の集金を横領していると全部さらけ出してきたのです。」と記載されており、右記載と当審証人前野一郎の「私の不正が最後にばれる前後に会社では加入者に対し掛金が何時払込になつているか間違ないかという照会を出したので不正がばれたのであります。」なる証言並びに成立に争のない甲第十三号証の二(前野一郎供述調書)により認められる前野一郎は、集金横領額は順送りに穴埋めしてごまかしていたが段々この穴埋ができなくなつてしまつたのであつて、同人の横領額が昭和二十八年一月ないし三月に特に多いのは、それ以前の横領額を順に後の集金で填補していつた結果によるであろうと推定されること、を綜合すれば、前野一郎の横領額がこのように増大したことについては、被控訴人側に監督上の手落があつたことが認められる。被控訴人は、当時集金係において照会はがきが出されなかつたにしても、原簿係からは照会はがきが出されていたと主張し、当審証人渡辺精一はその旨の証言をしているけれども、原審証人本田進の証言によれば同人が昭和二十八年一月から昭和二十九年六月まで被控訴会社の集金課長在任中、費消横領の件数は七件位あり、その金額は前野一郎以外は、二、三万円ないし十万円に止まつたことが認められることから考えても、前野一郎の件において著しく横領額が多いことは、前野一郎に対する被控訴人側の監督に相当の手抜かりがあつた結果であると認めるのが相当である。証拠によれば、被控訴人は、集金人の費込を防止するため加入者には「殖産住宅証書」、集金人には一定枚数の証紙を交付して、これを集金の都度加入者の手許の証書に貼布せしめ、翌日集金の報告書と証紙の枚数とを照会して、集金回数を確める方法をとつていたことは認められるけれども、右方法では、集金回数だけを確めるだけで、一回の集金金額まで確めることにならないから、右方法だけでは、十全の監督方法とは認め難い。従つて、本件においては被控訴人に監督上ある程度の過失があつたものと認定するのが相当である。
次に、証拠によれば、控訴人藤村、同内野は、前野一郎とは面識がなかつたが、その父誠之と引揚者同志として懇意な間柄であつたので、前野一郎の身元保証を引き受けたことが認められる。
控訴人藤村は、前野一郎が被控訴会社に雇われた時は集金掛でなかつた、と主張しているけれども、当審証人前野一郎の証言によれば、同人は被控訴人に雇われた最初から集金事務に従事していたことが認められるから、控訴人藤村の右主張は理由はない。
次に控訴人藤村は、被控訴人側が誓約書に捺印を求め来つた時前野一郎が集金掛であることを明らかにしなかつたことを攻撃しておるけれども、雇入の場合使用者が身元保証人に被用者の任務を告げることは必ずしも法の要求するところでないので、被控訴人側においてこれを控訴人らに告げなかつたからといつて、これをもつて控訴人らが身元保証の責任を免れるべき事由となすことができずこの点についての控訴人藤村の主張は理由がない。
また控訴人藤村は、被控訴人が前野一郎の素行業績を控訴人らに通知しなかつたことを攻撃しているけれども、昭和二十六年五月前野一郎の雇入後昭和二十八年三月までの間に身元保証に関する法律第三条第一号の事由すなわち、「被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ」にあたることが被控訴人に覚知されたと考えられる証拠がないから、控訴人藤村の右主張もまた理由がない。
以上認定にかかる諸事実殊に被控訴人の前野一郎に対する監督につき手落のあつた点、控訴人らの本件身元保証をなすに至つた事由を斟酌するときは、本件における控訴人らの責任は、前野一郎が被控訴人に与えた損害の内金十万円に止まるものとなすを相当とすべく、しかして控訴人らはそれぞれ前野一郎と連帯して保証債務を負つているので、控訴人らの間において分別の利益を有せず、それぞれ右前野一郎と連帯して金十万円の全額につき支払義務があるものというべきである。
(大江 猪俣 古原)